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Gia Margaret:Urban Echoes Day2


◼︎日付:2025年10月8日(水)

◼︎場所:自由学園明日館


 冒頭の「Hinoki Wood」の演奏を聴いたとき、まだアルバイトだった学生のころから現在に至るまで、幾度となく彼女のアルバムを流しながら仕事をしてきた記憶が脳裡にあふれた。楽曲そのものは静かでゆったりしているが、思い浮かんだのは、机に向かっている自分の姿が背中側から捉えられ、窓の外では昼夜や四季が高速で移り変わっていく、タイムラプスの映像のようなものだった。

 録音・編集の質感や、アルバムとしての構成に魅力があるアーティストのコンサートを観ることの意味については、2022年のWilliam Basinskiや、昨年のclaire rousayの来日公演の際にも考えたが、そのひとつには、繰り返し音源を聴き、あるいは流してきた時間のなかで蓄積された、取るに足らない記憶や経験が昇華される場所としての役割があるのかもしれない。技巧的な演奏や、息のあったアンサンブルによって、今・目の前で音楽が生成されることの感動を、ラップトップを機材に組み込んだひとりのアーティストに対して味わうことは、正直にいえば少ない。それとは別に、空間に身を置くことじたいを目的とした、儀礼的な意味が感じられた。やや大袈裟だが、録音された音源を信仰の対象として、その託宣をアーティストがおこなう儀式という趣きもある。いずれにせよ、現在よりも過去を、眼前のひとや物よりも空間そのものを、もしくはその場にない何かを志向する場所のように思える。

 主音量がわりあい小さく、観客の物音によって意識が途切れることも少なくなかったが、自由学園明日館というロケーションが、一部で味方をしていたとも思う。つまり、木製の椅子や床板の軋みに、音楽との調和を感じられる場面があった。これは彼女の音楽の懐の深さを表しもする。スマートフォンの動作する音などは庇いようがないので一長一短だが、アンビエントの音楽体験として優れた瞬間があったことも確かだ。先の宗教的なイメージは、この教会のような講堂に依る部分もあるだろう。

 今回のサプライズとして高木正勝との競演があり、「Birthday」に即興風のピアノで華が添えられた。私にとって特別なのは環境音や電気的なノイズの編集による『Pia』や『Opus Pia』だが、それでも両名が並んでいる光景は、ジャンルのリスナーとして感動的だった。また、公演の半ばで新曲も披露された。これまでのリリースの延長線上での展開を期待させる内容であり、それを収めた新譜は来年の発表を予定しているという。

20251011 鑑賞コンサート